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整理日: 2026-03-16

Coreline Venturesというシリコンバレーを拠点にするベンチャーキャピタル(VC)で、日本/北米/オーストラリア/ニュージーランドのスタートアップに投資を行っている原と申します。

ベンチャーキャピタリストという仕事柄、多くの起業家や経営者、様々な分野で成功している人に会うことがあり、その人たちがなぜ、どのように成功していったのかを、実際に見たり考えたりする機会に恵まれています。

また、僕個人としても、新卒でコンサルに入り、一度海外のスタートアップで働いた後、MBA留学を経て、2度の転職の後に今のベンチャーキャピタルという仕事に10年前にたどり着きました。 MBAの2年間やその後の転職時など、30歳前後でキャリアについて人より多く考える機会があり、その過程でキャリアを考える際のフレームワークを考えてきました。

この記事では、20代から30代前半向けに、これまで自分で考えたり参考にしてきたフレームワーク、個人的にとても心に響いた言葉をいくつかご紹介したいと思います。ビジネス系以外でも様々な分野で20-30代前半はキャリアについて考えるとても大事な時期だと思います。ビジネス系の方だけでなく、研究分野にいる方、専門職分野にいる方、など多くの分野でプロを目指す方にこれらのフレームワークが参考になればうれしいです。 目次

  1. 成長のSカーブ: 80-20の法則と成長の踊り場の"その先"
  2. キャリアのVSOP
  3. Sでは他人ではなく自分に合ったものを。Vをいつまでも繰り返さない
  4. 自分の周囲5人の平均 = 自分
  5. もっとも難しそうなオプションを取る。20代の失敗はいい経験。 Win or Learn
  6. 消去法で考えない。正解は確率分布
  7. 選択肢は迷っている間に消える。先延ばしした1年で失うのは全盛期の1年。
  8. 掛け算で考えるスキルの稀少度: 条件付き確率
  9. フレームワークを捨てよう①: 左脳で考えすぎない、好きを大事にする
  10. フレームワークを捨てよう②: キャリアのことを考えない

1. 成長のSカーブ: 80-20の法則と成長の踊り場の"その先"

新しい仕事についたとき、新しい職種や領域にチャレンジしたとき、はじめはスルスルと吸収していき、自分がよく「できるようになった」感覚が得られることが多いかと思います。

一方で、ある程度**「できるようになった」感覚が得られたあと**、同じ職種や同じスキルの努力を続けても、最初の数カ月で得られた**「できるようになった」感覚は強く得られず**、自分の成長が感じられない。この状態をよく**「成長曲線が寝てきた」**という表現をしたりします。

僕が新卒でコンサルに入ったとき、80-20の法則(パレートの法則)と言って、20%の時間で80%の成果を出す、という考えを教えられました。80-20の法則とは、マーケティング、ビジネス等で使われている「全体の80%の売上は上位20%の顧客から生まれている」、「全体の80%のカスタマーサポートの問い合わせは上位20%の問い合わせ」など様々なところで使われる経験則ですが、キャリアにも当てはまります。

新しいキャリアのはじめが最も効率よく成長を感じさせ、80%の成果が得られた後は成長曲線は鈍化する。

x軸を時間だとすると自分の成長(y)は、こんな風に感じます。

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最初は伸びが早く、段々と途中で伸びが鈍っていく。 毎日の努力により、確実にスキルはついているはずだけれど、他人との差がわかりづらい日々が始まります。

ところが、キャリアにおいてはこの曲線の「先」があります。 「効率的な成長の日々」を超えて、「成長の度合いが少なくなった先の努力の日々」を"しつこく"続けると、どうなるでしょう。

その日々を続けても結局差は出ないのでしょうか。いや、むしろ逆です。

例えば、プロスポーツ選手は、まさにそういう**「成長の度合いが少なくなった日々の努力」**をしつこく続けている人たちです。下記のグラフは、日本のプロ野球(NPB)の支配下全選手、約840名分の2025年の年俸の分布です。一つ一つの点が一人の選手で、年俸が低い順から高い順に並べています。

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840人中、下(図で言う左)から700人くらいは緩やかに年俸が上がっていきますが、上位50人ほどでその角度が急激に変わっています。

NPBにおいて最も年俸が高い選手は12億円ですが、平均的な選手(中央値、420番目)は2100万円です。年俸はこの業界においてはスキルの評価に近い(もちろん各球団の資金力やポジションによります)ので、一番すぐれた人は平均的な人の約60倍もらっている (= 評価されている)ということになります。 さらに、大谷選手はこのNPB最高選手のさらに8倍以上の年俸で、この曲線はさらに上へ上へと続いていきます。

ここで注目したいのは**「自分のランクが上がったときのその評価の変化量」**です。

例えば、840人中101番目の選手の年俸は1.5億円です。その選手が100人抜いて1番目になると年俸(評価)は12億円へと10.5億円も上がり、年俸が8倍に上がります。 同じように、平均的な選手(420番目)が同じように100人抜いて320番目の選手になったとします。平均的な選手の年俸は2100万円ですが、320番目に上がったときの年俸は3300万円。年俸は1.5倍にしかならないのです。

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101番目から1番目、420番目から320番目。同じ「100人ゴボウ抜き」でも、評価の変化量には大きな差があります。

このように、他の人とのスキルの差を作ってもなかなか評価が変わらなくなったその先には、少しでもスキルの差を作ると格段に評価が上がるフェーズが来ます。

ですので、成長のSカーブは「効率的な成長の80-20」で終わらず、このような曲線を描いていると考えています。

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最初は伸びが早く感じるが、次第にその伸び悩み長くその状態が続く。しかし、最後に急激に評価が上がる。

この最後に評価が急上昇するというのはスポーツ選手だけでなく、多くの職種で同じだと思います。平均的なスキルと上位20-30%くらいの人の"評価の差"はそこまでない一方、業界で一番スキルがある人に、評価も仕事も極端に集中するケースはよくあるように思えます。

ですので、効率的な成長の先にある、その「長く続く成長の踊り場」を超えて、「業界トップクラスに抜けた」状態、に行くことがキャリアを考えるうえで大事になるのではと考えます。

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構造図

flowchart TD
    A["自分がよく「できるようになった」感覚"]
    A --> B["どの領域においても一流にはならない"]
    B --> C["なくなってしまう"]
    C --> D["好きなふりをしている人はすぐに見抜かれてしまう"]
    D --> E["できなかったこと"]
    E --> F["成功"]
    style F fill:#c05746,color:#fff,stroke:none

2. キャリアのVSOP

これは僕が昔ちきりんさんのブログで読んで、そこから参考にしたフレームワークです。今考えてもこれに従って20-30代を過ごして良かったなーと思っています。 https://chikirin.hatenablog.com/entry/20120414

キャリアのVSOPとは、

20代: V (バラエティ) => 様々な仕事をする 30代: S (スペシャリティ) => どこかの分野に特化して仕事をする 40代: O (オリジナリティ) => 自分だけにしか出来ない仕事をする 50代: P (パーソナリティ) => 自分の人間力、人格で仕事をする *実は原典ではV = vitalityだったらしいですが、ちきりんさんのvarietyのほうが個人的には好き

20代はまだ自分が何が好きか、何が天職かがわからない人が大半。 なので、とにかく色々やってみることで、自分がその先やり続けるものを探すというものです。

30代は逆に20代でいろいろ経験したことから、その先人生を賭けるものを**「決める」。そして、それに特化**してS(スペシャリティ)の10年間を過ごすという考え方です。

まさに、さっきのSカーブに当てはめると、「自分が特化するもの」を選び、その結果、**評価が急上昇するまでしつこく続ける。**それが30代のS (スペシャリティ)なんだと思います。

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実は何かに特化して10年間を過ごす人はそこまで多くなくて、みんなが途中で抜けていき、その結果勝手に**「100人抜き」**になることもあります。

ただし、やはり続けるだけでは業界トップクラスには当然なれません。なので、20代でいろいろ自分との相性を試してみて、自分が勝負できる領域を選ぶのがいいと思います。つまらなそう思えることもあえて試してみる方がいいし、よく知らないこともやってみることが大事かと思います。 僕も全く興味のなかったファイナンスやベンチャーキャピタルという仕事に、MBA時代にたまたま出た講義や授業で触れて、それがいまに繋がっています。

最初から自分が特化するものを決めつけず、キャリアの最初は色々やってみることが、意外にも効果的だということは最近研究結果が出ています。 テニスのロジャー・フェデラーも、小さいときはサッカー、テニス、バドミントン、バスケットボール、卓球、スキー、レスリング、水泳、なんでもやっていたようで、しかもテニスコーチの母親が色々させていたようです。そして、テニスに専念し始めたのは10代の半ば。スポーツ選手としては遅く感じます。ただし、どこかでテニスに専念しはじめなければ、今のフェデラーはいないことは明らかです。

3. Sでは他人ではなく自分に合ったものを。Vをいつまでも繰り返さない

30代にどこで特化するか、それを考えるときに重要なことがいくつかあります。

まず、何に特化するかを「決める」際には、**「"自分にとって"合っている」**という当たり前のことを忘れないことです。

他人のキャリアを見て、面白そうと思うことはよくあります。でも、20代でたくさんのことを経験する目的は、「どんな面白そうな仕事があるか」を知るというよりも、**「自分がどういう人間かを知る」「"自分に"合っているものを知る」**ことだと思います。

20代の頃は「隣の芝生は青く見える」ことがたくさんあると思いますが、自分がどういう人で他の人とどう違うかがわかると、他の人が羨ましくなることもなくなると思います。 他の人の成功を見て、「うらやましい。自分もいけるかも」と始めた場合、おそらく成功していた先駆者を超えることはなく、結果的に厳しいキャリア選択になってしまうケースを多く見たことがあります。

また、V (バラエティ)の期間は30代前半まででやめて、どこかでぐっと我慢して、特化を始めることはとても大事だと思います。

V(バラエティ)の期間はSカーブで言う「効率的な成長」が感じられやすいです。そのため短期的な満足感が得られやすく、いつまでもこの色々な仕事や会社の「初期の効率的な成長」を、様々な場所で繰り返すこともできます。 その結果、S(スペシャリティ)を決めないといけない時期に、V(バラエティ)を繰り返して新しい基本的なスキルを得つづけるものの、どの領域においても一流にはならないというリスクがあることは頭に入れておきましょう。

4. 自分の周囲5人の平均 = 自分

20代のV (バラエティ)で多彩な仕事をする際には、職種、業態、会社のサイズもステージも、働く国も、いろいろ経験したほうがいいし、あまり深く考え込まずに色々チャレンジしてみるいいかなとは思います。 ただし、**一つだけ気にしたほうがいいのは「誰と働くか」**です。

Dropbox創業者のDrew HoustonはMITの卒業式スピーチで**「人間はよく時間を過ごす周り5人の平均になる。」**と語っていました。 この考えは、今僕のキャリアを振り返っても正しかったフレームワークの一つです。

そして、ある意味、正しい5人に囲まれたら、その人達の思考プロセス、価値観、考え方、が勝手にインプットされていくので、仕事の能力もその5人と同じレベルに追いついていく、最も"楽な"成長の方法です。 https://note.com/kenichiro_hara/n/n453e15334245

ただし、逆に言うと、こうなりたくないと思う人たちに囲まれると、自分もすぐにそういう人になってしまうということを意味します。なので、いろんな仕事にチャレンジしてみる中でも、自分がなりたいと思える人に囲まれている状態を作るのが大事かと思います。

その環境が今の自分の職場になかったとしても、なんとか自分でその5人を主体的に作っていくこともできるかもしれません。 もちろん、自分が働く場所にいる方がベストではあるのもの、自分のよく知っている方の中でそういう方がいるなら、定期的に会っていろいろ相談させてもらえないかお願いするのもありだと思います。多忙な方、よく知らない方だと難しいのですが、お願いしてみる価値はあるかもしれません。

よく知る人の中にそういう人がいなかったとしても、今は本だけでなく、ポッドキャストやYoutubeのインタビューなど、そういう方の考え方に深く触れられるものがたくさんあります。僕もVCとして、会ったこともない投資家の方のインタビューにどっぷり浸かってその人の考え方をコピーしていたことがあります。その時は要約ではなく、とにかく生の声を何週間も聞き続けるのがいいと思います。

5. もっとも難しそうなオプションを取る。20代の失敗はいい経験。Win or Learn

V (バラエティ)の期間やS (スペシャリティ)に差し掛かってきたタイミングで仕事を選ぶ際に、今振り返ると意味があったのは、「もっとも難しそうな」選択肢を取るということです。 例えば、とにかく求められる基準が高い、新しい領域なのでやったことがある人(前例)が少ない、英語が必要になる、他の国でや他の国の会社で仕事をする、事業や人事に"安定性がない"、など。

僕も自分のキャリアを振り返って、あれやっておいてよかったなーと思うのは、難しかったことや、うまくいかなかったこと。始める前は**「できなかったこと」です。逆に別にあれやらなくてもよかったなと思うのは、始める前から「できるだろうな」と思っていたこと**です。 ただ同時に、もっともっと難しい仕事をすればよかった、もっとリスクを取ればよかった、という心残りもあります。もっと早くもっとたくさん海外で勝負すればよかった、と正直今は思っています。

「難しそうな」選択を取る利点ですが、まず、難しそうなオプションを取る人は多いとは言えず、競争が少ない。その選択肢を取るだけで、すでに差別化になります。 人間は前例があるところに行きたくなるもので、誰も行ったことのない国や新しいポジションはそこに行くだけで差別化になります。

そして、難しそうな選択肢は、「難しそうだけれど、うまくいった場合にはその成果が大きい」傾向があります。 不思議と市場の原理がはたらくのか、難しい選択は競馬のオッズのようにその成果が大きい傾向があると感じます。(難しいだけで成果も大きくない選択肢もありますので、それは要注意です。)

それでも、失敗したときはどうしよう、と怖くなることもあると思います。ここで、20代、30代前半の強みがあります。**「20代の失敗は、いい経験」**になることが多いのです。経験則ですが、40-50代でうまくいっている方の中で、若いときに失敗している方は多いように感じます。

実際に、転職の際の面接でも、20代の失敗談とそこからの学びを語ると、皆**「いい経験したね」**と割と反応が良かったりします。 僕もそういう経験をしたことがあります。MBA時代に米国テック企業の現地のサマーインターンの就活をしていたとき、同じコンサル企業から数十人の外国人(非アメリカ人)が受けていました。皆同じ会社からの外国人、同じMBA、でも僕だけ合格したのです。特に僕が優秀だったわけでもなく、英語力で勝るわけでもない。理由はおそらくただ一つで、僕がMBA前にスタートアップでうまく行かず「失敗」していたからだと思います。他の人は皆そのままコンサル企業から直接MBAに行った人ばかりでした。

失敗をしても、**「そこから何かを学ぶ」**ことは失敗を「いい経験」にするための必要な条件です。ネルソン・マンデラの言葉で下記のような言葉があります。

I never lose. Either I win or learn. 私は決して負けない。勝つか、学ぶかだ

Win or Learn. 成功するか、学ぶか。長期的に見たらどちらも成功にできるのが20代だと言えます。

これは、20代、30代前半の強みです。**ある程度の年齢を過ぎると、失敗は「その人の実力のせい」**でその人の責任だと問われ始めます。そうなる前に、できるだけ難しい選択肢を取って、win or learnするのがいいのではないかと思います。

6. 消去法で考えない。正解は確率分布

私たち日本人は学校教育で**「選択肢の中から正解を選ぶ」**トレーニングを受けてきていることが多いかなと思います。 選択肢の中には必ず正解があり、その他の選択肢は間違い。なので、私たちは「消去法」で考える癖がついているとも言えます。 選択肢Aはこういう理由で間違い、選択肢Cはああいう理由で間違い、選択肢Dも間違い。したがって正解はB。

私たちはキャリアにおいてもそのように考えてしまうことがあります。企業A、企業B、企業C、企業Dを並べて、企業A、企業C、企業Dはないと思うから、企業Bにしよう。

ただし、現実社会はそうは行きません。選択肢Aも選択肢Bも選択肢Cも選択肢Dもすべて正解の可能性があります。また、すべて間違いの可能性もあります。 現実社会においては、それぞれの選択肢の「正解の確率」が異なるだけです。

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左側の"消去法"的な考え方だと正解は一つだけ。ただし、右側のより現実的な選択肢だと、AからDまですべてに正解の確率があり、0%でもなく100%でもない。どれを選んでも確実に失敗でもなく、確実に正解ともならない。

さらにややこしくしているのは、それぞれの選択肢が正しかったとき、得られる成果も違うことです。

選択肢Aは選択肢Bより正解の確率が低いかもしれないけど、正解だったときはその成果が大きい。

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右側にそれぞれの成果を仮定的に入れています。選択肢Aは確率30%で正解でそのときの成果は80ポイント。選択肢Bは一番確率が高くて60%の確率で正解でも得られるのは40ポイント。

このケースでは、正解の確率とその成果を考えると、AとBの期待値は24ポイント、 Cは20ポイント、Dは25ポイント。確率が一番高いBより、Dの方が期待値が高い。また、一番高い点を狙いたいならもちろんCですが、Bの方が期待は高い。これを見るとどの選択肢を取るかは、シンプルな意思決定ではなくなります。

さらに、この確率は**「自分で変える」**ことが出来ます。自分の努力でそれぞれの選択肢の成功確率を20%から60%に変えることができる。成功確率は結局その人次第でもあります。

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もし、上のグラフのように選択肢Cを自分の努力で正解の確率を60%に上げられるなら、選択肢Cは60%の確率で100ポイントはいることになり、おそらく選択肢Cを選ぶ人が多いはずです。 ですので、正解を探すのではなく、「その後の努力でその選択肢を正解にする」、という考え方が大事になると思います。

7. 選択肢は迷っている間に消える。先延ばしした1年で失うのは全盛期の1年。

前述した通り、**100%正しい答えはいつまでたっても見つかりません。**ある程度正しいと思ったなら、いつまでも正しい答えを探し続けるのではなく、動いたほうがいい。でもわかっていても、やはり時間をかけてじっくり考えたり、慎重に選択したくなります。

ただし、転職は大学受験や新卒採用と違うことがあります。先日まであったはずの選択肢が突如なくなることです。 大学受験や新卒採用などは、ほとんどのケースで、毎年同じ時期に行われ、毎年応募でき、同じだけの人数が合格します。

一方で、転職では、常に応募できるわけではなく、その会社の採用が終わることもあります。またその会社が採用していたとしても、そのポストが埋まってしまったらそれで終わりです。 「あと1年今の仕事を続けて、もう少し力をつけてから応募しよう」は、海外留学や大組織のプログラムでは成立する考えでも、転職だとその採用ポストや機会はなくなってしまうことがよくあります。

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特に珍しい機会だと、なくなるまでの時間が早く、なくなったらその選択肢は戻ってこない、といえます。 僕も今のベンチャーキャピタルファームの前身のDCM Venturesというシリコンバレー拠点のVCに転職するか迷っていたときに、その時USのパートナーに「米国のVCはいつも採用しているわけではないから、チャンスがあるならなったほうがいいよ」と言われ、僕はDCM Venturesに入ることを決めました。実際、DCMではその後数年間日本では採用しませんでした。

何かの選択肢の間で決められないときに、僕が同級生の友人に教えられた言葉を思い出します。「迷うのと、考えるのは違うよ」「考えている」のは決めるために必要な判断材料を集めて分析している状態。「迷っている」のは判断材料も集めず何もしていない状態。 キャリアにおいて、どの選択肢にするかすぐ決められることは少ないとは思いますが、なるべく**「迷う」ではなく「考える」時間**であるほうがいいのではと思います。

さらに、「決めない」間の機会コストについても、考えておきたいことがあります。前述した通り「あと数カ月」「あと1年」、決めることを先延ばしするインセンティブは多くあります。あと数カ月働くとボーナスが出る。あと一年働くとポジションが上がり年収が上がる、など。 その時点では短期的に経済的に正しそうに見えますし、僕も同様に先延ばしした経験があります。

ただし、**その先延ばしした期間分、キャリアが短くなります。**そして、その短くなるキャリアは、スキルがついて体力もある全盛期だったり、自分の評価が最も高くなるはずの期間です。

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Sカーブになぞらえると、S(スペシャリティ)に入るべきタイミングを先延ばしすると、結局最後に自分が最も評価が上がるタイミングがその分なくなってしまうのかもしれないのです。

僕も今のVCの仕事を始めるのを数ヶ月先延ばししたことがあり、今になると、数カ月でも今の仕事を早めに始めたらよかったとよく思います。

繰り返しになりますが、まだキャリアのV(バラエティ、多様性)の期間であれば、「先延ばし」とも異なります。ですので、焦らずいろいろ体験するのがいいと思います。一方で、S(スペシャリティ)の期間に突入しはじめているなら、その「先延ばし」の時間は自分の全盛期を短くしてしまうかもしれません。

S (スペシャリティ)のフェーズに差し掛かったとき、もしかしたらこれが自分の10年を費やすべきものかどうか確信が持てないかもしれません。 これだ!と「見つかった」感覚にはならないかもしれません。**「見つける」のではなく「決める」**ことが大事です。いつまでも見つからないのは、いつまでも決めていない、だけなのかもしれません。

8. 掛け算で考えるスキルの稀少度: 条件付き確率

S(スペシャリティ)で自分が特化するものを決め、そこから長い時間をかけて一流を目指すとしても、やはり仕事上のチャンスは多くもらいたい。 その時に考えるべきは**「その業界で自分はどの程度ユニークか」**です。 何百人、何千人もいるライバルの中でも、ユニークな人には多く仕事の機会が集まることはよくあります。

自分自身がどれだけユニークなのかは、自分が持っている経験やスキルの稀少度で決まります。そして、どんな人でも様々な経験や、スキルがあるので、その「稀少度の掛け算」が自分のユニークさを決めます。

例えば、英語が話せて、リサーチが得意で、営業も得意、など自分の持っているスキルをかけ合わせていきます。 英語力がトップ5%で、リサーチ力がトップ10%で、営業力がトップ20%なので、5% x 10% x 20% = 0.1%の稀少度、のような考え方です。

ここで気をつけないといけないことがいくつかあります。 まず、それぞれのスキルの相関性です。

たとえば、エクセルでモデリングが出来て、問題解決が得意で、プレゼンテーションにも自信がある人がいたとします。そしてそれが全部トップ10%の実力だったとしましょう。しかし、その人の稀少度は10% x 10% x 10% = 0.1%の稀少度、とはなりません。 なぜなら、エクセルでモデリングができる人は、大半が問題解決も得意で、かつ大半がプレゼンテーションも得意、となってしまい、ほぼ集合が重なってしまうからです。 ですので、稀少度が10% x 10% x 10% = 0.1%ではなく、そのまま10%になってしまったりします。

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左側のベン図はやや重なりが少ないけれど、右側のベン図はほぼ重なってしまっています。

ですので、スキルを掛け合わせるときは、なるべく、あるスキルAを持っている人のほとんどが持っていないスキルがあると格段にユニークになります。

多くのビジネス系の職種の人にとっては、デザインの知識、コーディングのスキルも相関が低く、持っているととてもユニークになるでしょう。 経験も同じです。大企業の中ではスタートアップの経験を持つ人は希少でしょうし、逆にスタートアップの中では大企業の経験を持つ人は希少です。

例えば、「語学力」は、様々なスキルとも相関が低いスキルです。なので、単純に語学力があるだけで、その人の希少性は比較的簡単に高まります。とくに日本語と英語の組み合わせは相関は低めです。 僕の前職のVCでの米国、中国の同僚は、大学を飛び級してハーバードMBAに行きその後起業して大手テック企業に売却した人、北京大学の成績トップの人、スタンフォードMBAの成績特等生でVC経験がある人、などだらけでした。そんな会社にVC経験もなく、成績も普通で、起業も売却もしたことない僕みたいな人間が入れたのは、僕が**「日本語が話せて」、その会社に「日本語話者の需要が」**たまたまあり、**米国のVC志望者の中では「日本語が話せることが希少」**だったからです。例えば中国語話者を求めていたとしたら、中国語と英語の組み合わせは珍しくなく、僕レベルの経験やスキルでは入社のチャンスはなかったことは間違いありません。

ただし、そのスキル/経験が希少だとしても、ただ単に希少なだけで、市場からの需要がないスキル/経験だと要注意です。 例えば僕は希少なヤクルトスワローズファン(プロ野球ファンの2%程度で日本に50-80万人程度しかいないと言われている)で、その中でもスワローズの選手のアマチュア時代の知識には自信があります。なので、かなり希少性の高い人材(1億人の人口の中でもトップ0.01%くらい)だと言えますが、このスキルによって何かチャンスが来たことは僕の仕事上では今のところありません。(常にその機会が来ることを待っています)

先程の語学も"その仕事にとって"需要が大きい言語であることが大事です。マイナーすぎると需要がないのかもしれません。ただ英語や中国語はメジャーすぎて意味ないという心配はありません。やっぱり外国語を話せる人が日本ではとにかく少ないからです。

まとめると、スキルを掛け合わせるときは、その稀少度と、持つ人の重なりの少なさ、市場からの需要、この3つを意識すると、自分がどんどんユニークになるのではと思います。

フレームワークを捨てよう①: 左脳で考えすぎない、好きを大事にする

これまでこの記事では、いろいろキャリアの考え方のフレームワークについて書いてきました。 ただ、お伝えしたいのは、「どんなときでもキャリアを戦略的にフレームワークに当てはめて設計すべき」ということではありません。 ここからは、フレームワークよりも大切なことを書いていきたいです。

僕がS(スペシャリティ)の期間に大事だと思うのは、客観的に戦略的に分析をして左脳で考えすぎるのではなく、自分がとにかく好きである領域を選ぶことを大事にすることです。(20代のVの時期は好き嫌い関係なく何でもやるほうがいいと思います)。 これだ!と自分の特化すべき分野を選ぶ際は、客観的なフレームワークを捨てて、主観的な意思決定を大切にすべきだと思います。

**S(スペシャリティ)の期間、10年間何かを続けることは簡単ではありません。**うまく行かないとき、想定と違ったとき、他のキャリアが良さそうに見えたとき、「客観的に」キャリアを選んだ人は、**途中であきらめて辞めます。**そして、また新しく「客観的に」選んだキャリアを一から始めて、そして多分またあきらめて辞めるかもしれません。

とにかく粘り強く、しつこく10年間続けないと、一番いい時期はやってこないのです。それを自分が心の底から好きで好きで仕方ないものではないとしたら、10年間続けられるでしょうか?

また、そもそも「好きなこと」で勝負すると、そうでない人と実力も差がついていきます。**好きであれば、24時間そのことについて調べていても楽しい。努力を努力とは思わなくなる。**好きでやっている人と、そうでない人の間には学習量に大きな差がついていきます。

さらに、不思議なことに、好きな分野では知識の覚えやすさも早くなります。好きな分野では、新しい単語、人の名前が簡単に覚えられるのに、苦手な分野はなかなか覚えられない、ということは誰にでもあるのではないでしょうか。 なので、何かの分野が好きな人からすると、そうでなく好きなふりをしている人はすぐに見抜かれてしまうのだと思います。

学習量に応じて知識の獲得スピードは早くなりますが、好きな分野はそれがますます加速していきます。好きな人と、そうでない人の差は、指数関数的に広がっていくのです。

**好きであれば、吸収のスピードも違うし、学習の時間も長くなるし、さらに長く続けることができる。**逆にいうと、好きでない分野は、好きな人より吸収は遅く、学習時間は短くなり、続けるのもしんどい。そんな分野で好きな人と勝負しても勝ち目はないかもしれません。

フレームワークを捨てよう②: キャリアのことを考えない

この記事の結びとして「**キャリアで成功するためにはキャリアのことを考えない」**ほうがいいということを最後に強調したいと思います。

一度決めたら、一度やり始めたら、とにかく目の前の仕事に集中する。

あれこれ悩んでいるうちに、他の人は努力しているかもしれません。キャリアのことを考えていると、仕事に全力を出すことは難しくなります。

目の前の仕事に全力を投下していると、学習量も多くなり、成果も出て、よりチャンスが舞い込んできます。そうすると更なるキャリアの成功につながるスキルや経験ができているかもしれません。

成功している人を多く観察すると、あまり戦略的にキャリアを考えて逆算してキャリアを設計してきたわけではなく、ただひたすらに仕事に全力を出してきた人がほとんどです。

結局、逆説的ですが、キャリアでの成功を考えないことがキャリアで成功する秘訣なのかもしれません。

最後に、そもそも成功とは何か、ということも触れたいと思います。様々な定義がある中で、僕が好きな成功の定義は、下記のジョン・ウッデンという大学バスケットボールの名コーチの言葉です。

成功とは、自分がなれるベストの状態になるために最善を尽くしたと自覚し、満足することによって得られる心の平和のことである。 --- さらに言えば、自分の成功のレベルを判定できる唯一の人間は自分自身である。 上に述べたことが真の成功であると私は確信している。それから派生するもの─たとえば得点、トロフィー、全米優勝、名声─はすべて副産物である。 真の競争は自己ベストに到達するよう努力することであり、それは自分しだいでどうにかなることである。それができれば、成功をおさめたといえる。そのとき、あなたは勝者であり、あなただけが自分が勝ったかどうかを実感するのだ。

成功とは他者との比較ではないし、地位でもお金でも名声でもなく、**自分のフルポテンシャルを出せるほど努力できたかどうか。**それをキャリアの成功だとすると、他人と比較する必要もないし、キャリアのことを考える暇もない。とにかく目の前に集中することが大事なんだと思います。

おわりに

ここまで読んでいただき有難うございます。 いくつかキャリアのフレームワークの記事として書きましたが、最後に書いた通り、それだけに頼らず自分の好きを大事にし、とにかく目の前の仕事に集中することが最も大切だと思っています。

ただ、この記事やいくつかのフレームワークによって、できるだけ多くの方が自分のポテンシャルの最大限に到達し、ジョン・ウッデンの定義での「成功」に近づいてもらえたらと思います。 そして、多くの方がS(スペシャリティ)のフェーズで自分に合ったものを見つけ、そこで粘り強く特化し、成長の踊り場のその先に向かって頂けたらうれしいです。